HIP-HOP育ちの人の親父はジャズ大名

 『ジャズ大名』鑑賞。筒井小説の実写化。86年作品。奴隷解放ということで折角だからアフリカにでも帰ろうかという陽気な黒人4人組。だが、悪徳メキシコ商人に騙されて香港行きの船に乗せられ、船中でクラリネット奏者が病死(?)する中、小船で脱走(脱漕?)した3人は駿河湾を臨む小藩に流れ着く。

 ここの藩主(古谷一行)は情勢とかにはサッパリ興味がないらしく、篳篥を吹いてばかり。んで、当然彼らの楽器が気にかかる。異国人を保護した件について本家は「処分するなりなんなり好きにしろ」と言ってると聞いて、
「じゃあ“なんなり”の方でいくぞ」
ということで彼らを座敷牢にかくまい、クラリネットを譲り受けて藩主は上機嫌。

 この藩(というか城)の設定で面白いのは、立地上江戸と上方を往来するのに最も近道で安全な経路であるということで、天井裏は幕府や薩長密偵が常に往来しているし、城内の廊下も両派の侍が行き来しているところ。藩主の性格上、中立(というかどっちつかず)故の妙。通り抜けの際、城内の空き部屋に引っ張り込んで
「我が藩は茶所ですので是非一杯」
みたいなコト言って両派が鉢合わせしないようにする工夫が面白い。

 大きな戦争(?すいません。歴史とかよく知らんので)になりそうな勢いだとわかった藩主は
「よし、あいわかった!畳を返し建具を外し、調度を片付ける!」
「いよいよでございますな!で、どちらのお見方を?」
「戦うためではない。ここ(城内)をただの道にするためだ」
「と、申しますと?」
「幕府も薩長も自由に通ってもらえ。斬り合いになっても撃ち合いになっても手出しは無用!」
「しかし、殿のこのお部屋も・・・」
「無用!余にはこれさえあれば(と言って手に持ったクラリネットを見せる)」
「はい?」
 というワケで地下の座敷牢にいる異国人の許へ。んで、城内を通路にするという作業を終えた者達も加わって一層大仰な、もう城全体でのジャムセッションがただただ繰り広げられる(地下で演奏してる上では斬り合いw)。ええじゃないかの一団も通過したりと色々あって、いつの間にか時代は明治になっていたというただそれだけの話。といえばそれだけなんだけど、妙に観ていて楽しいんだよね。ジャズとか全然わかんないんだけど、取り敢えず音楽っていいなぁと思える、そんな映画です。

 筒井作品なのに(?)筒井先生は登場しません。ただ、岡本喜八監督ですから、ラストの全員セッションのシーンのドサクサに紛れてミッキー・カーチス氏がエレキギター弾いてるわ、山下洋輔氏がおもちゃのピアノを弾いてるわ、タモリが屋台引きながらチャルメラ吹いてるわでもうむちゃくちゃである(しかも皆服装は思いっきり現代)。そこがまたいいんだけど。あと、家老役の財津一郎さんの口癖「はい?」必聴。

 更に余談だが、この頃の唐十郎さんは今の古田新太さんに似てると思った。

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