ずれた眼鏡を掛け直し、伽藍となった部屋を出た。吹く風には未だ夏の匂い。撫でられた全身からは、汗がおびただしく噴き出していた。
地を這う鋼の箱に乗り、帝都から米原迄2時間半。そこからローカル線乗り換えで1時間。
故郷の風には、もう秋の気配。つい先刻迄、半袖で暑かったのがまるで嘘のよう。
季節外れの帰省・・・いや、帰還というべきか。はっきりしていることは、大学出てから初めての無職になったということ。実は先月末で会社を辞めたンだった。
ただ、凱旋というワケではないが、かといって勿論敗走でもない。特に錦を飾る予定はないが、人知れず朽ち果てるつもりもない。