流石に逆刃刀は実在しないらしい

緋村剣心

 朝、眼が覚めたら安部譲二になっていた。まぁ、毒虫じゃなくてよかった。カフカの『変身』は読んだコトないけど。

 おまけに物凄い倦怠感。「よし!」と腹を括って始業時間まで二度寝。再び起きて会社に電話。部課長とも出張でいないので休み易いのが不幸中の幸い。「どうも、安部譲二です」ってボケる余裕なし。明日は今日の分も頑張らねば。

 夕方迄、ダルさ故に寝る。やはりこういう時は井伊直弼もとい、安静に限る。病院はダルいので行くのが面倒だし。以前、急性肺炎で入院した時もそうだが、ヤヴァさの限界値は身をもって知っているのでいよいよとなれば自分で救急車くらい呼べる。今回はそういう境地には程遠い。

 取り敢えず下らない暗示でもかけることに。声が出るよう、谷啓氏の「僕はしゃべれるんだ」をループで聴く。効果は、秘密。

 個人アーティストのアルバム毎ならフォルダを整理しているが、VA関係はどのアルバムに誰の何という曲が入っているのか捜すのは酷く厄介。こんな時、iTunesの利便性を担っているのはシャッフル再生よりも検索能力だと実感するのである。勿論、キチンとタグ編集していることが前提だが。

 Googleのデスクトップ検索やMac OS X Tiger以降の新機能であるSpotlight等、次世代が欲する新機能は高度かつ迅速な検索システムなのだなぁ。NAS派の僕としては、早いトコLAN内ファイル検索対応版を出して欲しいモンです。因みに現在は定期的にNAS内のファイルのリストをテキストに抽出して、それをローカルに保存することで対応させてます。


 つばめ氏のブログ(http://d.hatena.ne.jp/swallow9/20050615)を拝読。調子に乗ってコメントもさせて戴いたが、やはり日本刀は、いい。一応こちらでも言っておくが、私個人に殺傷願望はないので念のため。

〜正宗/相州五郎入道正宗
 まさむね。最も有名な業物といったらやはりこれだろうか。実用面以上に美術品的な価値を見出された刀。戦国時代以降は特に将軍の御物や武将の進物として愛用されたようだ。仮に廃刀令がなかったら、今頃はルイ・ヴィトンなんかがコラボ品(鞘とか鍔)を出しているに違いない、元祖国産高級ブランド。

虎徹(「古鉄」「乕鉄」とも)/長曾祢輿里入道虎徹
 こてつ。新撰組局長であった近藤勇の愛刀とされるが、近藤の持っていた虎鉄は偽物という説も。確か『るろうに剣心』では宗次郎が志々雄から渡された日本刀で剣心の逆刃刀を折ったのだが、それも虎鉄だったような。

備前長船備前国長船光忠
 びぜんおさふね。佐々木小次郎の“物干竿”はこの長刀だとも言われている。日本人が通常より長い仕様の物をこう呼びたがるのはここからか。初代ミスター・タイガース、藤村富美男選手のバットに至っては通常より5cm以上長い程度(バッティングに於いてはその差が特異であるというのは判るが)でもこう呼ばれて親しまれた。

菊一文字菊一文字則宗
 きくいちもんじ。新撰組一番隊組長であった沖田総司が使用していたと某小説に書かれていることで有名になったが、実際は不明。沖田の使用が認められているのは加州清光

〜村正/伊勢千子村正
 むらまさ。“妖刀”で有名。由縁としては、清康(家康の祖父)、廣忠(家康の父)、信康(家康の長男)が村正で死んでいることと、(家康)自身も関ヶ原で負傷させられた(但し、こちらは村正だが刀でなく槍)ことにある。要は家康が忌み嫌った刀。逆に、アンチ徳川の武将(毛利秀元島津義弘真田幸村由井正雪など)は愛用した。

〜九字兼定/和泉守藤原兼定
 くじかねさだ。ここでいう“九字”とは「臨兵闘者皆陣烈在前」の九文字であり、裏にはこの文字が切られている。ジャパニーズ・ホーリー・ソード(ホントはソードではなくブレードなんだけど)なんつったら外人にウケそうだが、実際のところ退魔ではなく祈祷の意味合いが強いそうだ。

同田貫/肥後同田貫正国
 どうだぬき。こちらも小説の影響か。子連れ狼こと拝一刀の愛刀として有名。どちらかというと実用刀としての側面が強く、美術品的に扱われることは多くは無い(勿論、素晴らしいものもある)。他に比べ、かなり重いらしい。拝の凄さの一端がここに。


反り具合や刀紋といった形状そのものの美も好きだが、一番好きなのは刀に纏わるエピソードの類。

〜圧し切り長谷部/長谷部国重
 へしきりはせべ。織田信長の愛刀。無礼を働いた茶坊主に対し手打ちにしようとしたところ、茶坊主が膳棚の下に隠れてしまったので“棚ごと”し切った(振り下ろす勢いでバッサリ斬るのではなくグイグイと押し付けて斬った)ことからこの名がついた。

〜ニッカリ青江/備中国青江貞次(?)〜
 にっかりあおえ。妖怪(幽霊?)退治から。石灯籠の脇に子供を抱いて“ニッカリ”笑う女。「あの人に抱いて貰いなさい」と子供をよこすので斬り捨てる。すると「私も抱いて」と寄ってきた女も斬る。翌朝その場所には、石塔が二つ、首を斬られていたという。ってか、“ニッカリ”って笑いの形容として由緒正しい(?)のねん。

〜波遊ぎ兼光/備前国兼光〜
 なみおよぎかねみつ。戦国時代。馬で川を渡ろうとした者を後ろから斬りつけたところ、渡りきったところで体が真っ二つになったことから。元祖「お前はもう、死んでいる」

〜八丁念仏団子刺し/不明〜
 はっちょうねんぶつだんござし。斬られた相手は、何事も無かったように念仏を唱えながら歩いて行き、八丁(約870m)も行ってから体が真っ二つになった。また、斬った方が後をつける際、抜き身のまま杖代わりにしていたので、道に落ちていた石がまるで団子のように串刺しになっていたことから。

 刀に対し、なんという扱い、と思うかも知れないが、もしかしたら合理的な意味があるのかも知れない。寝刃(ねたば)である。刀の斬れ味を向上させる手法として、刃先に細かい傷を付ける。刃の表面に細かい凹凸を付けることで接地点を減らし、摩擦を少なくするコトで斬れ味を増大させるのである。寝刃のつけ方としては、専門家(砥師)に任せるのが一番だが、砂山に垂直に刀を突き刺したりする方法もあるようだ。

るろうに剣心』では志々雄真実の刀、殺人奇剣シリーズの最終型である無限刃(新井赤空作)の刃が鋸のようになっていたが、説明が「刀としての殺傷能力をギリギリ維持する程度に、あらかじめ刃の一部をこぼすことで強度を保つ」だったので読んでいてゲンナリしたものだ。因みに寝刃は硬いものを斬ることには向いていない。ということはやはり人斬り用のディティールなのだろう。

 蛇足だが、故:黒沢明監督「七人の侍」では菊千代(故:三船敏郎)が野武士との決戦に備えて刀を何本も地面に突き立てている。これは、日本刀で人を斬る場合に、だいたい一振りにつき三人程度しか斬れないからである。刃に脂肪が纏わりついて斬れなくなったりして刃がボロボロになるからだ。この辺りのリアリティーも黒沢作品の魅力の1つだ。何十人斬りシーンで話題作りをしてしまう時代劇って。。。


 上記の刀とそのエピソード、真偽の程は置いておいて、なかなか興味深い。また、これらは有名だし、名刀の類とされているが、まだこれらの日本刀の上に、「天下五剣」(てんかごけん)と呼ばれる、童子切(どうじぎり)、鬼丸(おにまる)、三日月宗近みかづきむねちか)、大典太(おおてんた)数珠丸(じゅずまる)という五振りの超名刀が実在していることを知っていないと赤っ恥を掻くので要注意。

 あと、刀剣には呪術的な側面もありますが、神話に登場するものなんかも面白いですね。筋金入りの読書嫌いの私ですが、小学生の頃、唯一好きで読んでいた(流石に現代語訳版でしたが)のが『古事記』。この中に登場する天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)が妙に記憶に残っていますね。剣であって日本刀とは違うんですけど。天叢雲剣草薙剣(くさなぎのつるぎ)という別名もあります。なんか、昨今はゲームにも出てきて有名になったんだそうです。

 余談ついでに。『ルパン三世』の石川五右衛門で有名な斬鉄剣の正式名称(というか漫画版)は「流星」。反りのない、所謂“直刀”っぽいこと自体は日本刀じゃないという理由にはならない(正宗にも直刀はあるらしい)ですが、外観からすると日本刀というより長ドスの類に近いんじゃないかと思っております。