こいつは音楽鑑賞の革命戦士だぜ!

長州力

 帰宅してからもう数時間が経過しているというのにイヤホンが外せない、いや、外したくないのだ。音楽を聴いているだけなのに、なんでこんなに楽しいんだshuffle!既聴の曲を再生してるだけだというのに、なんでこんなにワクワクしてしまうんだshuffle!

 学生の頃、白河天皇比叡山の僧兵と加茂川の氾濫と双六の出目とランダム再生だけはどうにもならんと言ったとか言ってないとか習ったとか習ってないとかいう気がするが、斯くいう私もその天皇に負けず劣らずこの機能が大嫌い。オレの聴きたいように聴かせろよ!オレはかませ犬じゃない!と。

 ポータブルから据え置き型に至るまで、ランダム再生ができない機種を捜す方が難しいくらいにスタンダードな機能にも拘わらず、果たしてどれだけの人間がこの機能を好んで使用していたことだろう。少なくとも私の廻りでそんな聴き方をしてるような連中は皆無。

 MDが登場した時は、音楽鑑賞に革命が起きたと実感できた。それは、ディスクへのデジタル録音により、好きな曲を好きな順番で編集し、尚且つ鑑賞できた点にある。所謂「俺BEST」を作成するだけならカセットテープですら可能な芸当ではあったが、こと鑑賞に於いてはDATですら、瞬時に次曲を呼び出すことはできなかったからだ。

 私のような松岡きっここと自称音楽好きっ子が、「俺BEST」作成時に最も拘るのは選曲以上に再生順である。最近は、私のようなド素人ですらPCを用いてCDからリップした音楽データの波形を弄ることも可能になり、時間的余裕さえあればポータブルMP3プレーヤー用に別途編集したデータを作成したりできるようになった。まぁ、なんちゃってDJというかナンというか、要は曲と曲の繋ぎ目を好みで最適化(終わる方の曲はフェードアウトさせておいてその上に次の曲をフェードインさせるとか、曲間を無くすとかそういうヤツ。専門用語あると思うけど知りません)させてるダケなんだが、確かにこれダケでもバラで聴くのと全然印象が違ってくる。手間かかって仕方ないのが難点だが。。。

 こんな感じでガチガチに編集してる人間がランダム再生なんかする筈がないワケで。いや、ここまでの酔狂でなくたってランダム再生はやってないと思う。答えは至って単純。エンドユーザの我々にはそのメリットが全く伝わってこなかったからである。

 Appleが真に凄いのは、ややもすると手垢のついた、刺身のツマ的な機能という認識しかなかったランダム再生の面白さに気づき、我々に試させた(そして気づかせた)点にある。どんなに楽しいことだって、実際にやってみるまで全く実感できないものもあるのだ。

 それは“ランダム”を“シャッフル”と言い換えることに始まり、それを冠したプレーヤーをフラッシュメモリータイプで、しかも余計な機能と価格を極限まで落とした(一過言なくもないが)上で、それを“売り”に転換できた宣伝の巧妙さに尽きる。

 確かに、今迄使用していたポータブルMP3プレーヤーなんかでも、特にディスプレイなんて視たりしなかったので「そういや要らないかも」って思えるが、そうはいってもshuffleがこういう“一見必要っぽい”部分をバッサリ斬り捨てたところはやはり英断であると評価したい。対ダグラム用に、当時政府軍のザルツェフ少佐がソルティックの装甲を極限まで取っ払った時のような潔さと格好良さを感じた。

 とはいえ、多少の不満もある。前述のようにあれこれ曲同士の繋がりを考えて楽しむような人間のために、プレーヤーが曲の終わり方と次の曲のイントロを判断して自動的にフェードイン・フェードアウトや曲間なしをやってくれたらいいのにと思った。そのために価格が五千円程度上がったとしても私は構わないので。

 それにしても、やってみて解かるシャッフル再生の面白さは筆舌に尽くし難い。プロフィール欄にプレイリストを揚げておいた(この後シャッフルしたワケだが)ので宜しければ御一読願いたい。私の場合、シャッフルといっても転送時にランダム転送をして、プレイヤーの再生設定自体は順番通りにしている。まぁ、同じことなんだけど。因みに全部私の好みと一致したらすぐにでも精神病院で診てもらって下さい(笑)

 さて、もう日付もとうに変わってしまった。それでもまだイヤホンが外せないでいる私。明日は代休なんで最悪朝起きてからシャワー浴びてもいいかとすら思っている次第。だってムーンライダースの「駅は今、朝の中」の後に坂口良子の「サインはⅤ」が流れてきちゃった日にはもう病みつきになるってモンですよ、まぉう!

アンソロジー 1976-1996

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