状況の中継≠実況解説

古館伊知郎

 最近、TVはCS(ANIMAXのみ)しか観ていなかった。お陰で世間の動きにかなり不自由であることに気づいた次第。地震はこちらでも多少感知できるので震源は大変だろうなぁとかその程度の気に掛け具合ですいません。これまでの経験が茶化しちゃならんと教えてくれているだけで、俺の本心は果たして心底親身になって心配しているとは思い難い。やっぱどこか他人事だと思っている自分。

 湾岸戦争当時、ブラウン管を通して遠い国の戦争をリアルタイムで観て以来、TVの映像に対しては、逆に説得力を感じることができなくなってしまっていた。馴染みのない現実リアルはリアルな虚構アンリアル以下だと知ってしまった。全部が胡散臭い。もう肉眼で確認した事象しか信用できない。まぁ、もっと昔に生まれていたとしても、浅間山荘事件とかできっとそう悟っただろう。

 テレ朝っ子なので報ステ・・・だが敢えて音は出さずに映像だけ観てみる。無音の方が真実を掴みやすいので。案の定、古館伊知郎と云う名の最もリアルから遠い男がありったけの欺瞞に満ちた表情で被災者の心情を察している芝居の真っ最中だった。少なくとも俺にはそう視えた。

 なぁ古館、嘗て一世を風靡したその話術(芸人としては高く評価しています)で、面白可笑しく事件ニュースを実況してはくれまいか。どうせキミの口を通せばそれは速やかに虚構に変わるのだから。アンドレ・ザ・ジャイアントモンスター・ロシモフを”一人民族大移動”と形容してみせたキミのセンスで、陰惨な事件や災害を別の”何か”に変換しておくれ。

 そんな訳で、地震以上にイラクでまた人質騒動(これは「事件」なんかじゃない)だなんて全然知らなかった。やはりというべきか自然災害以上にピンとこない。まだ消音ミュートを解除していない、静寂を湛えたブラウン管の中ではやはり古館が、地震や政治と同じ要領で何事かを語っていた。もしここで消音ミュートを解除していたら、私は彼が何と言っていたのかを聞くことができていただろう。

 彼はついうっかり、被害者を”日本政府”だなんて言わなかったかい?